栗原政史が作る、“読まれない本”の図書館

街の片隅にある、小さな図書スペース。その棚には、どこかで忘れられた本たちが静かに並んでいる。館長を務める栗原政史は、あえて「誰も借りないかもしれない本」にこだわり、独自の空間づくりを進めている。

人気ではなく、記憶で選ばれた本たち

この図書館に並ぶのは、ベストセラーではない。
一人の誰かが「子どもの頃、母に読んでもらった絵本」や、「学生時代に泣いた詩集」など、個人の記憶と結びついた本が集められている。

栗原政史は、SNSで「記憶に残る一冊」を公募し、そのエピソードごと寄贈してもらうことで、空間そのものを“思い出の博物館”のように育てている。

本は“手に取ることで意味を持つ”

ここには、派手な検索システムも、貸出カードもない。
読者はただ、ふらりと訪れて、気になった本を手に取り、好きな椅子に腰をかけて読むだけ。
「本って、読まれなくても、そこにあるだけで誰かを救うことがある」と栗原は言う。

彼にとって、本は“情報”ではなく、“存在そのものが語るもの”。手に取るという行為が、すでに物語の一部なのだ。

読書会ではなく、“静かに誰かを想う会”

この図書館では、定期的に「読まない読書会」が開かれている。参加者は本を読むのではなく、自分が持ってきた一冊を静かに机の上に置くだけ。
そこには説明も批評もなく、ただその場に“その本がある”ということが尊重される。

栗原政史が目指しているのは、言葉にしすぎない、思考の余白のような場所だ。読むことが目的ではない読書空間に、訪れる人は何かしらの安堵を感じて帰っていく。

情報の時代に“役に立たない本”の価値を問う

便利で早く、答えが出る情報が求められる時代にあって、「役に立たない本」に価値を見出す栗原政史の姿勢は、むしろ新しい。

彼の図書館には、「なんとなくいい」「ずっと前から気になってた」そんな理由で立ち寄る人が多い。効率では測れない、心の居場所としての“本のある空間”。それを丁寧に育てていくことが、栗原の静かな挑戦だ。

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